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船舶技術研究所 渡辺巖
1. はしがき
1994年9月末、荒天航海中のRO/RO客船エストニア号が転覆、沈没した。荒天波浪で船首扉が破損して車両甲板浸水が起こり、それによる復原性悪化が事故の原因であるとされている。900名近くの人命が一瞬に失われるというこの事故を契機にRO/RO客船の安全性に関する論議が欧州を中心に巻き起こった。在来の客船と異なり、閉囲された何の仕切りもない車両甲板を持つRO/RO客船は、いったんそこへの浸水が始まると致命的な事故につながる船なのではないかという懸念が、今回の事故ならびにこれに先立つ1987年のヘラルド・オブ・フリー・エンタープライズ号の事故で人々に強く意識されるようになったためである。このため事故の当事国である北欧諸国を中心に、できるだけ速やかに安全性向上の手だてを図るべきであるとの強い世論が形成されることになった。
国際航路に従事する船舶の安全性は海上における人命安全に関する条約(通称SOLAS条約)で規定されており、それに基づいて各国の安全基準が作られている。従ってSOLAS条約その他関連する条約規定の中で、RO/RO客船に関する規定が十分なものかどうか検討することがまず必要である。そのためこの条約を所管している国際海事機関(IM0)では、RO/RO客船に関する各国の専門家パネルを設けて改正案を審議することになった。1994年12月から1995年5月にかけて専門家パネルの審議が行われて改正案が作成され、昨年11月下旬に開催されたSOLAS締約国会議に提案され、採択された。今後各国はこの改正案を国内法化して、施行していく事になる。採択された改正の内容はSOLAS条約の全体にわたるものである。大きく分類すると
船内への浸水防止対策(船体扉、衝突隔壁)
復原性要件の見直し
車両甲板から下の浸水防止
避難脱出対策
救命設備
捜索・救難
に関する内容である。これをSOLAS条約で見ると第II−1章から始まり、II−2、III、IV、

 

 

 

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